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東京高等裁判所 昭和36年(ラ)633号 決定

抗告人 渡辺儀市 外一名

主文

本件各抗告を棄却する。

理由

本件抗告理由の要旨は、次のとおりである。

(一)  別紙目録〈省略〉記載の不動産は二個の不動産であるから、その競売にあたつては各不動産毎に各別に競買価額の申出を催告すべきところ、本件競売においては、かかる手続をとることなく、右二個の不動産につき一括した競買価額の申出をさせたうえ競落を許可したから、右競落許可は違法である。

(二)  固定資産税額は、三年毎に改定されるものであることは顕著な事実であるところ、昭和三十六年八月十一日の本件競売期日の公告に掲げられた本件競売不動産の固定資産税額は昭和三十六年度のものではなく昭和二十九年度のものであるから、右期日の公告は違法とすべきである。

(三)  抗告人渡辺明美に対する本件競売期日の通知は、同抗告人に対して行われることなく、父渡辺儀市を同抗告人の親権者として同人宛になされた。しかし同抗告人は当時成年に達していたのであるから、同抗告人に対する右通知を欠いた本件競売手続は違法である。

当裁判所の判断は次のとおりである。

一、数個の不動産が共同抵当の目的である場合に一括競売が許されるかについては、法律に別段の定めはないから、ある不動産の売得金をもつて債権及び手続費用を弁済するに足りる見込のあるとき、個別競売に比し不利益と認められるとき、または数個の不動産上に債権者と順位とがともに異る抵当権があつて各別に競売しなければ配当額の算定に支障をきたすとき等、一括競売を不適当とする場合を除いては、これを積極に解するのが相当である。

記録によれば、本件競落不動産二筆については、当初から裁判所が特に一括競売を命じたものではなく、又、昭和三十六年八月十一日の本件競売期日においても執行吏が右二筆を一括競売に付したものでもないけれども、これに対し一括競買の申出をなした者二名があつただけで他に各別の競買申出をなした者がなく、かつ一括競買申出の価額は各不動産の最低競売価額の合算額を下らなかつたので、執行吏は右二名の中から最高価競買人を呼上げたことを認めることができ、右のような場合には、執行吏の措置を違法とはいい難い。そして記録によれば、別紙目録、記載の各不動産は、その各評価額に徴し売得金をもつて各抵当債権及び手続費用等を弁済するに足りる見込はないこと、本件における一括競売による最高価競買価額は右各不動産のそれぞれの最低競売価額の合算額を超えていること、右各不動産は競売申立債権者及び他の債権者のため共同抵当の目的とされてはいるが、各債権者の抵当権は各不動産につきたがいにそれぞれ同一の順位にあつて、配当額の計算に支障を生ずることはないこと、以上がいずれも明らかであつて、他に一括競売を不適当ならしめる事由はない。したがつて、本件競売において右各不動産の一括競買申出をした最高価競買申出人に競落を許可した原決定は相当である。

二、抗告人ら主張の本件競売期日の公告に掲げられた右各不動産の固定資産税額が昭和二十九年度のものであることは、記録により明らかであり、また右各不動産はいずれも宅地であつて、その固定資産税額が近年上昇の一途をたどつていることは公知の事実であるから、右公告に掲げられた税額が公告当時におけるそれより低額であることは容易に知りうるところである。しかしながら、競売期日の公告に不動産の公課を記載させるのは、競買申出人をして競買申出価額を定める一応の資料とさせるためであるから、通常の場合は、競売申立書添付の証明書(民事訴訟法第六百四十三条第一項第三、第四号、第二項)またはこれに代る執行吏の調査報告(同条第三項)に基いてこれを記載すべきものであり、正確に公告の時の現在における公課額を記載しなければならないというものではない。もつとも競売申立後公告までに年月が経過し、公告記載の公課額とその当時の実際の公課額とが甚しく相違して、公告の記載額を法の所期する公告額の記載と認め難いような特別の場合には結局公告にその記載を欠いたことに帰し、公告は効力がないことに帰するけれども、本件においては、公告記載の公課額と公告時現在の実際の公課額との間に右に示す特別の場合に該当するような甚しい差異があることを認めることのできるような資料はない。従つてこの点に関する抗告理由も採用しがたいものである。

三、記録(三百七十丁)によれば昭和三十六年八月十一日午前十時の本件競売期日の通知は抗告人明美に対しても行われたことが認められるから、この点に関する抗告理由もまた採用しがたい。

以上のとおり、本件抗告理由はいずれもその理由がなく、記録を精査しても原決定を取消すべき違法の点を発見することができない。

よつて主文のとおり決定する。

(裁判官 小沢文雄 池田正亮 中田秀慧)

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